鶏ジェンヌの地鶏Journey!!

第2回  秋田県比内地鶏 2023年9月12日

「鶏ジェンヌの地鶏Journey!!

 

こんにちは。鶏肉大好きのライター、鶏ジェンヌです!

消費者の皆さんに、地鶏がどのように育てられ、どのようにおいしく食べられるのかをご紹介する連載です。第2回となる今回は、日本三大地鶏と言われる秋田県大館市の比内地鶏をご紹介します。

提供:秋田県比内地鶏ブランド認証推進協議会

 

お盆が明け、暦の上ではもう秋にもかかわらず少し歩くだけで汗が噴き出るほどの暑さ。秋田大館空港に降り立った瞬間に、思わず「暑い……」と呟いてしまいました。

秋田犬で有名な大館市ですが、実は比内地鶏のふるさとでもあるんです。北秋田も夏はこれほど厳しいのかと伺うと、比内地鶏の生産者である山本隆久さんは、「ここは標高が高いので市街地よりも気温が低いんですよ。この暑さは過去にないですね」と言います。

 

もともと秋田の比内地方では「比内鶏」という鶏が飼育され、その地で暮らす人々においしく食べられていました。ところが、日本に外国産の鶏が輸入され産業として成長していくのに合わせて飼育する人が減り、比内鶏の数が減ったことで1942年に国の天然記念物に指定され、食べることが難しくなりました。

 

「比内鶏のようなおいしさの鶏が食べたい」という地元の人たちの想いを受け、比内鶏を親鳥として、比内鶏のおいしさを持つ鶏を開発しよう!となり、生まれたのが比内地鶏です。

食用の鶏として普及するためにはおいしさはもちろん、育てやすさや繁殖のしやすさも大切な要素。新しい鶏は比内鶏のおいしさを引き継ぎ、比内鶏より卵を多く産んで大きく早く育つ鶏になるようにと育種改良を行いました。

そして、肉付きが良くて卵をよく産むロードアイランドレッド種と掛け合わせることで比内地鶏が誕生しました。

比内地鶏は、国が地鶏の基準として設定した「1㎡あたりの飼育密度が10羽以内」よりもさらに低い、1㎡あたり5羽以内という飼育密度で育てられています。

今でこそ鳥インフルエンザへの感染予防のために外での放し飼いはしていませんが、広い鶏舎をのびのびと走り回り、比内地鶏のために開発された餌を食べて150日以上かけてじっくり育ちます。

また、餌には米どころの秋田らしく飼料用米を用いることで、輸入に頼る日本での飼料自給率の向上も目指しています。

 

―比内地鶏のおいしさのヒミツ―


山本さん
山本さん

生産者の一人である山本さんの農場には、鶏舎が6つ。

150日以上かけて成長するため産まれた時期によって鶏舎が分けられており、大きな鶏舎のひとつに1000羽ずつのびのびと育てられています。

鶏舎を覗くと手前に小さな囲いがあり、中に数羽の鶏がいました。

「他の鶏より小さいから、餌をたくさん食べて大きくなるようにわけて育てているんです」と山本さん。

毎朝鶏舎をひとつずつ回り、餌をあげながら一羽一羽の様子を確認。競争に負けて餌を沢山食べられない子を隔離して、安心して餌をたくさん食べられるようにしているとのこと。

「全ての鶏を同じような大きさで同じようにおいしく育てたい」と、鶏への目配りを欠かしません。

 

【鶏舎】
比内地鶏を育てる鶏舎のほとんどはビニールハウス。風通しがよく、広々とした空間で鶏たちが元気に育っています

また、山本さんの農場にはいつもラジオが流れていますが、これにも理由がありました。

「鶏はとてもデリケートで臆病な生き物。ヘリコプターの大きな音に驚いてショック死してしまうこともあるくらいストレスに弱いんです。ですが、小さなヒナの頃からラジオを流して音に慣れさせると、ストレスを減らすことができます。また、鶏舎に入る時はいつも同じ服で静かに入るなど、鶏を驚かせないように気を使っています」

比内地鶏を使う高級飲食店からも指名されるほど品質の高い山本さんの比内地鶏は、山本さんが一羽一羽に愛情を注いで大切に育てているからこそなんですね。



―安心と信頼の比内地鶏ブランド―



秋田県では、消費者の信頼に応えるために「比内地鶏ブランド認証制度」で生産者の飼育管理方法や販売事業者の品質管理方法などを定めていて、比内地鶏に関わる生産者や販売事業者の多くが、ブランド認証制度に申請・登録しています。

また、年に一度、比内地鶏のDNA識別検査を行い比内鶏の血を引いている比内地鶏であることを科学的にも証明しています。

このDNA識別検査の方法を開発したのが、秋田県畜産試験場比内地鶏研究部所属で、農学博士の力丸宗弘主任研究員です。

「この技術を研究・開発した当時は全国で食品偽装が問題に上がっていました。比内地鶏の絶対条件は『父親が比内鶏であること』なので、比内鶏が持つ特異的な遺伝子型と同じ遺伝子型を持っていれば正当な血統の比内地鶏であることを証明できると考え、研究を進めました」

力丸さんが説明してくださったこのDNA識別検査は2010年より毎年行われ、検査結果を公表することで認証制度と併せて、消費者に対する安心の一助となっています。比内地鶏ブランドを守るために、秋田県と事業者が一丸となっているんです。

【DNA表】
一番上が比内鶏のDNA分析表で、黄色い箇所が比内鶏特有の遺伝子型を表わしている。下2つの比内地鶏の分析表と黄色い箇所が一致していることから、検査を行った比内地鶏は2羽とも比内鶏を父親に持つ正当な血統であると証明されている。

また、力丸さんはDNA識別方法の開発だけでなく比内地鶏のおいしさ成分の研究もされています。比内地鶏のおいしさ成分についてお話を伺うと、うま味成分として有名なイノシン酸だけではなく、アラキドン酸が豊富だと教えてくださいました。

「アラキドン酸は食味の向上……簡単に言うと、食品のおいしさを強く感じさせる成分なんです。比内地鶏にはこのアラキドン酸が他の鶏に比べて多く含まれており、これが比内地鶏が『味がしっかりしている』『うま味が濃い』と言われている理由であることがわかりました。農研機構と㈱J-オイルミルズ、そして私たち秋田県農林水産技術センター畜産試験場の共同研究チームで学会発表も行ったんですよ」

比内地鶏のおいしさは、科学的にもしっかりと裏付けされているものなのです!

 

 

―比内地鶏丸ごと一羽のおいしさを味わう―

阿部専務
阿部専務

比内地鶏の生産者である山本さんと、比内地鶏ブランドを科学的に支える秋田県畜産試験場の力丸さんにお話を伺った後は、比内地鶏の処理・加工・販売を行っている㈱本家比内地鶏の工場を見学し、取締役専務の阿部健二さんにお話を伺いました。

「地鶏はどうしても一羽一羽の大きさにバラつきが出てしまうので、人の手で部位ごとに解体します」と阿部専務が作業工程を見ながら解説してくださいます。

工場はしっかりと衛生管理され、スタッフの皆さんが黙々と作業をしています。内臓も部位ごとに丁寧に分けられていますが、私たちが普段口にしている若鶏と比べてとても鮮やかな色。

東京の有名な焼き鳥店が比内地鶏を使う理由がよくわかります。

「一羽丸ごとすべておいしく食べてもらう。それが私たちの目指すところです」

阿部専務が話す通り、私たちのよく知るもも肉やむね肉、レバーなどはもちろんですが、そのほかにもあらゆる部位を丁寧に処理し、販売しているとのこと。

 

工場
居酒屋さんなどに卸す焼き鳥串を1本1本丁寧に串打ち作業を行っている。

特に比内地鶏はとてもおいしい出汁が取れるため、鶏ガラはラーメン屋さんなどに大人気。「モミジ」と呼ばれる鶏の足も中華料理などで人気の食材で、余ることなく取引されているそうです。

また、これまで使い道がなくて困っていた鶏の頭は、ペースト状にしてペットフードとして販売することで解決!阿部専務は新たにペットフードの販売会社を立ち上げたそうです。

「生産者の方が一生懸命育ててくれた鶏を、残さずおいしく食べていただくことが当社の役割。生産者と飲食店や消費者の方をつなぐことが使命だと思っています」と阿部専務は言います。

同社の取引先には首都圏の高級飲食店も多数。食材に強いこだわりを持つ料理人の方から要望を受けることも多く、生産者の方と協力しながらニーズに応えていきたいとのこと。

「比内地鶏は自然の中でのびのびと育てるため、どうしても大きく育つ鶏、小さい鶏とバラつきが出てしまいます。お客様に理解してもらうことも私たちの仕事ですが、少しでもバラつきを抑えて、均質なおいしさを提供することも目指していかなくてはいけません。生産者の方たちと一緒に努力していきたいですね」。生産者の方々と強い信頼で結ばれている阿部専務だからこその目標を最後に話してくれました。

 

―比内地鶏のおいしさを日本中に広めたい!―

 

武藤社長
武藤社長

続いて訪れたのは、比内地鶏の加工・販売を行う秋田比内や㈱。同社は業務用卸だけではなく、一般消費者向けの通販や、直営の飲食店で、地元の方から観光客にまで大人気の秋田比内や大館本店の経営も行っています。

「コロナ禍で飲食店が休業するなど、業務用卸部門は大変な状況でしたが、一方で家庭用商品が通販で大人気となりました。家庭で比内地鶏を食べていただくきっかけとなり、比内地鶏のおいしさを多くの方に知っていただけたことはプラスだったと思います」と、武藤幸美代表取締役。秋田名物のきりたんぽ鍋はもちろん、ハンバーグや、レンジでチンするだけでお店のようなとろとろの親子丼ができるミールキットなど、ラインナップも増やしているそうです。

武藤社長に比内地鶏のおいしい食べ方を伺うと、「実は比内地鶏は焼いてもとてもおいしいんですよ」と教えてくださいました。そして「比内地鶏の焼き料理を提案したのは当社が最初です」と続けます。

比内地鶏は普通の鶏(ブロイラー)と筋繊維の種類が異なり、肉の保水力が高いとのこと。また、さらっとしているのにうま味がぎゅっと詰まった脂が比内地鶏の特長なので、焼くとうま味成分がアップしてよりおいしくなるそうです。

……ここまでお話を伺って、お腹が空いてきました。ここからは、比内地鶏のおいしさを味わいながらお話を伺います(笑)。

 

―秋田の「ホンモノ」を堪能できる秋田比内や大館本店―

「大館に人を呼びたい。食で人を呼べる街にしたい」。武藤社長のそんな想いから始まった秋田比内や大館本店は、世界中からの観光客はもちろん、平日は地元の方で大賑わい。大館の人も、観光客も、皆さん秋田の食を大いに楽しんでいます。

「比内地鶏をはじめ、秋田の『食』を満喫していただきます」と、秋田比内やの山本美穂統括部長にご案内いただき、いよいよ比内地鶏を味わいます!

手羽さき
手羽さき
むね皮串
むね皮串




前菜に続いていただくのは手羽さきの煮込み。醤油味と味噌味の2種類の手羽さきは、するりと骨から身が離れて食べやすさも抜群です。噛むと比内地鶏の肉のうま味をしっかり感じられる控えめで、でもうま味たっぷりの繊細な味付けでいくらでも食べられそうなほど。

串ものは皮、ハツ、レバーそして「むね皮」の4本。武藤社長がお勧めしてくれた新鮮でプリプリのハツに、臭みが全くなくとろけるレバーは、内臓系が苦手な方でもおいしく食べられること間違いなしです。そして秋田比内や自慢の「むね皮」は、パサつきが全くなくてむね肉のイメージが変わるほどの一品。ジューシーなのにさくっとした歯ごたえの良さは、比内地鶏ならではです。

お好み焼き
お好み焼き
きりたんぽ鍋
きりたんぽ鍋

変わり種メニューでは、比内地鶏のお好み焼きが新名物として人気急上昇とのこと。「大館産の山芋と米粉を使っています」と山本部長。米どころである秋田ならではのお好み焼きは、ふんわりと軽い生地に仕上がっていてぺろりと食べられます。

続けて登場したのは秋田名物のきりたんぽ鍋。比内地鶏のうま味がぎゅっと詰まった滋味溢れるスープが冷房で冷えた身体に染み渡ります。秋田比内やでは冬はせり、夏はじゅんさいと旬に合わせた具材で提供しています。観光客だけでなく、地元の方も夏でもきりたんぽ鍋を召し上がるお客様は多く、秋田のソウルフードとして愛されているのがよくわかります。

比内地鶏づくしの夜、締めにいただいたのは通販でも大人気の親子丼です。比内地鶏を軽く焼いてうま味をアップしてから煮込み、とろとろの卵で仕上げた親子丼は地鶏の香ばしさに出汁のうま味が併さった至高の逸品!今度はぜひランチで大盛りを食べたいと思いました。

親子丼
親子丼

比内地鶏は秋田の人々の食文化から生まれた地鶏。

観光客はもちろん、地元の方々に愛される秋田の食に欠かせない存在です!